■祭りの一こま 心で光を味わう。
かなり昔、奥多摩へトレッキングに出掛けた日のことである。
先輩が計画したルートは予想外に時間がかかり、
陽が落ちても宿のある村には
なかなか着くことができなかった。
山はあっという間に墨色に染まり、
辛うじて浮かび上がる白い道筋だけを頼りに、
さらに一時間ほど歩いた。
やがて闇の向うに小さな家の灯りが見えだすと
誰もが安堵感に包まれ、喜びの声を口にした。
今思い出してもその灯りはやさしくて、
人肌のように温かく、自然のなかで感じる数少ない
感激のある灯りだった。
自然光を区別してみると、太陽は「光」で月は「あかり」。
そして星は「輝き」というように三つに分けられると思うのだが、
飛騨の人たちは幼い頃から祭提灯や屋台提灯の灯り、
そして風で揺れ動く蝋燭（ろうそく）の灯りに親しんできた。
いずれも見る人の感性に柔らかく訴えてくる
月のあかりによく似ている。
写真／秋の高山祭○下二之町にて