飛騨の細道 14 - 「飛騨の山猿。」


■飛騨の山猿。

国鉄高山線が開通していない頃、
飛騨の人は木炭車に揺られ、十数時間もかけて岐阜へいった。
都会の人は山の向こうのまたその向こうから来た飛騨びとを指して
「山猿」となじったというが、いまでも街道すじにはちょくちょく野猿が出没する。

里山に出没する猿は飛騨の人にとってべつだん珍しくはないが、
これが町なか、それも観光スポットで有名な日下部邸となると地元人も驚く。

猿は柿を狙って柱を伝い屋根に向かったが、
大きなひさしが邪魔をして登坂ルートを断念し、すばやく下山を開始した。
そしてこんどは雨どいをつたって大屋根へアタック。
無事成功した猿はひさしの先から腕を精一杯のばして枝にタッチしたが、
枝の先は折れ、あえなく失敗。
観光客たちの熱い視線を一身に受け、声援までもらっていたこともあって、
事が失敗に終わるとあっというまに雲隠れしてしまった。

ぼくには猿の一連の動作が屋台のからくりのように見えておかしかった。