■春、金蔵が飛騨に舞う
春になれば万物がいっせいに希望に萌え出し、
夏になれば一斉にその最盛を謳歌し、
秋になればその稔りをかみしめて喜ぶ。
冬にはひとときの休養をとる。
(『春を呼ぶ村』より抜粋)
古くから稲作農業は日本人にとって大切な生業であるが、
日本の一年はこの稲作を中心とする暦年であり、
祭りもこれと深く関わっていた。
祭りの儀礼次第は様々な部分から成り立っているが、
その中でも重要な要素のひとつは、
神にお供えものを献じることであり、マツリ(祭)という言葉は、
マツル(献)から出たものだといわれている。
祭りは荘厳と華麗、静寂と喧騒、静止と躍動、はては神聖さと通俗など、
様々な局面を様々な色で縁取られながら、進行していく。
厳粛にとりおこなわれるべき神事を『静』とするなら、
開放感に満ち溢れた金蔵獅子は『躍動』である。
高山市国府町の『金蔵獅子』を始め、
飛騨の各地の祭礼には『金蔵獅子』が多く登場する。
ストーリーは獰猛な獅子に金蔵が立ち向かい、
一時は負けそうになるのだが、
奮起して最後には獅子を退治するというものだ。
金蔵のいでたちは顔に天狗面をつけ、頭には鶏毛冠をいただき、
手甲短衣に身を固め、黒のタスキの中央には○に金の文字をあしらっている。
男神の金蔵には成人者が扮するが少年も金蔵に扮する。
神の前で奉納する少年金蔵の勇姿な舞いは、
若木のようにしなやかで、そして軽やかで美しい。
写真/金蔵に扮する少年