飛騨の細道 34 - 「町家のある風景」


■町家のある風景

雑誌で紹介される古い町並みは、
週末ともなると歩行者天国のような混雑ぶりである。
家々の高さも間口の幅もそして意匠も統一され、
木造建築の繊細な美しさをかもし出しているが、
和雑貨や食事処になってしまった町並みは
ピカピカと輝いているぶん、
澄ましたような顔だちになってしまった。

ところが日下部邸や吉島邸へ足を向け、
さらに北へ歩くと、越中街道の面影が残る大新町があり、
ここら一帯の町家には生身の暮らしを包み込んで
呼吸している息づかいが感じられる。

墨色に塗られた間口の小さな町家は
そんな一角で見つけたものだが、
はりの木口や戸口の障子、そして丸い玄関灯の白が、
黒い色彩のなかで際立って美しかった。

近づいてみると郵便受けやインターホンまでが黒に統一され、
家主の色に対する細やかな配慮に好感が持てたが、
さらに隣家の床屋さんの「ねじりん棒」が
申し合わせたように町家にちょっとしたアクセントを生み、
両隣りとのおつきあいまでが想像できてしまうような、
風景だった。


写真/小さな町家