飛騨の細道 42 -「夏と川ガキ」


■夏と川ガキ
 
夏、私は川ガキだった。
私だけでなく、まわりの友だちはすべて川ガキだった。
川ガキは夏になるとどこからとなく出現し、
手にヤス、坊主頭に水中メガネといういでたちで、
夏を駆け巡っていた。

夏休みも中盤に入ると肌の色はすっかりと黒くなり、
川ガキは宿題もそっちのけで、
昼からひぐらしが鳴く頃まで川で遊んだ。

高山でも赤岩と称する場所は町なかにちかくて、
ここでも川ガキの姿を見ることができた。
といっても四〇年前の話で、川が生活水で汚れると同時に、
川ガキも山の奥のへとしだいに押しやられた。

それでも高山は自転車で山道を一時間ほど走れば、
身も凍るような清流で遊ぶことができるのだ。

川ガキは飛び込んでも大丈夫な淵を好む。
そして飽きることなく岩場から水面めがけ、
空中で思わぬポーズをとり、奇声を発する。

ただそれだけのことなのだが、
一度川ガキになったものは、その記憶が忘れられず、
年をとっても釣りなどをして川と遊び興じるのだ。


写真/たまゆらより(稲越功一撮影)