飛騨の細道 79-「旅の空を思わせる」


■旅の空を思わせる

かつては鉱山として栄華に輝いた神岡は
生粋の飛騨人が少なかったせいか、
どこか大らかでふんわりとしていて、旅の空を思わせた。
 
川ぎわまで迫る山に挟まれた小さな町は坂が多く、
細い露地が続くが、辻を越えるたび微妙に表情を変えていく。
そんな町を眼下に、走り続けてきた神岡鉄道が廃止になって
四年近くがたった。

鉄道の古き良き哀愁を懐かしむのは万国共通で、
西洋人にもカメラ小僧はたくさんいるが、
廃線を利用して改造した自転車で走っているのは
ここ、神岡だけだ。

この改造自転車、正式には「レール・マウンテンバイク」と呼んでいるが、
二台の自転車がレール巾で固定されている。
動力は自前の脚でこぐもの。電動でアシストされるハイブリッド車。
それにプラス、観覧車が付くものがある。
ほかにはオートバイが木製トロッコを牽引するものなどもあり、
家族みんなで乗れる。

列車といえば、揺れる振動と
耳に心地よいガタンゴトンのメロディー。
走ってみると足下から列車どうようの音と振動が伝わってきた。

聞くとマウンテンバイクのペダルの下にある、滑車がミソだという。
動力はレールの上を走る後ろタイヤ、前タイヤは飾りだ。

見ているとプラットホーム前のレールは坂になって駅舎へと引き込まれており、
さながらアルペンスキーのスタートハウスのような感じ。
走者はうす暗い駅舎のなかからまばゆい緑のなかへ、
はじめるようにして坂を下るのだ。
(続く)