飛騨の細道 80-「誰もが安楽の表情を浮かべる」


■誰もが安楽の表情を浮かべる

無理をしないようにという主催者側の計らいで、
多少のズルができるハイブリッド車にのせてもらった。
幼いころに乗ったトロッコのドキドキ感は年のせいか甦ってこないが、
風景のなかを切って走っていく、
得もいわれない爽快感は、あの時のままだ。

一段高く盛り上がった石積みの上を走る。
スピードは早足で駆ける感じだ。
レールからは茶の間で寝転がるおやじさんの後ろ姿が見える。
レール・マウンテンバイクをやりはじめた頃は、
町の人も珍しがったというが、
最近では裏庭を走り抜けても知らぬ存ぜんだという。

一本目のトンネルが見えだした。
闇のなかに吸い込まれた運転者は、
ひたすら向こうに見える明りに向かってペダルをこぐ。
さらにこぐ。

この日は全国で一番高い気温を記録した神岡だったが、
トンネルのなかは、寒くて鳥肌がたつくらいだ。

二本目のトンネルにはいった。
このトンネルは大きくカーブしていて出口が見えない。
どれだけこいでもお先まっくら。
しだいに闇のなかでこのまま永遠に漕ぎ続けなきゃいけないような、
恐怖心に襲われだした。
となりの運転手は真顔だ。
彼も同じことを考えているようだ。

ようやく明りがみえ、ひと安心。
折り返し地点の神岡鉱山駅がせまってきた。
レールは単線のため、最後部が到着するまでプラットホームで待機。
片道15分。帰りは登りのせいか20分ほど要した。

観光巡りのサイクリングとはちがって、
乗ること自体が体験になるレール・マウンテンバイクだが、
ひと味ちがった視点と、風をうける皮膚感覚が楽しい。

飛騨の通ではこのレール・マウンテンバイクを体験し、
ひと味ちがった神岡をめぐる旅を現在計画中。
お楽しみに。