飛騨の細道 84-「ウォーターフォールと瀧」


■ウォーターフォールと瀧

英語では滝を『ウォーターフォール』と呼ぶが、
日本では滝を『瀧』や『瀑』と書いたりしても『瀑布』と書くことは少なく、
滝の定義を落ちる水とした西洋人と、滝を無数の歌に使い、
時には山水画の点景とした日本人との違いがおもしろい。
 
瀧といえば『那智の瀧』がまっ先に浮かぶが、
立ちこめた霧の切れ目からのぞく、
崩れ落ちる瀧は言葉には言い表せないほど神々しい。

瀧をじっくり観察すると、水は一瞬たりともその 置に留まることはなく、
一瞬にして下へと落ちていくのだが、
「水の流れそのものはまるで静止したような美しさをたたえながらも、
絶えず動いている」というように、
水の流れの中に何かを見い出すところが、日本的なのかも知れない。
 
観光名勝というと利便性を優先し、
車で傍まで行けるような所が多いが、『那智の瀧』のように
参道を歩きながら瀧の音に耳を傾けるような序章が瀧との出会いには大切で、
多少なり苦労しないと瀧の名状しがたい感動に胸が震えることはない。

その点、乗鞍五色ヶ原の布引滝は
8時間のトレッキングコースの最後に拝ませてもらえるというから、
その美しさは疲労困ぱいの体にさぞかし深く染みこむに違いない。


写真/幾重にも重なる白い糸(撮影/稲越功一/たまゆらより)