飛騨の細道 89-「別院うらの蓮池で」


■別院うらの蓮池で

飛騨の風情を未だ残す江名子川に
ふたつの小さなお寺が並んで建っている。
ひとつは暎芳寺、もうひとつは称讚寺。

そのふたつに挟まれた細い参道は、
夕方には鉄の扉で道は固く閉ざされてしまうが、
早朝になると再び開かれ、
「ごぼうさま(高山別院の別名)」の名前とともに
地元の人が安川通りへとぬける近道として親しまれている。

歩き出すと少しづつこう配がきつくなるが、
坂の途中、右手に大きな蓮池が見えだし、
ひとやすみにはかっこうの場所となる。

大きな石垣といくつかのお墓に囲まれた池は、
小学校のプールを少し小さくした感じで、
飛騨では貴重な蓮池だと解説されていた。

例年、蓮が咲きだす頃合いを見計らって
足を運ぶのだが、早すぎるか遅すぎるかのどちらかで、
今年は「見たい、見たい」と強く思わなかったせいか、
一番美しい蓮にであえた。

それにしても「咲きならぶ蓮を背にしたお墓」なんて、
演出としては決まりすぎるほど決まっているが、
現世に生きるわたしたちにとって、
まさに極楽浄土を絵にした場所といえる。


写真/松と蔵。そしてお墓と蓮池。これこそ日本の風景だ。