飛騨の細道 90-「19本の橋」


■19本の橋。

旅人に人気がある朱色の橋。
その東側に城山と呼ばれる小高い山がある。

ここに高山城を築城したのが金森長近だが、
当時、江名子川は東側から攻めてくる敵陣を防ぐ大切な
堀の役割をしていたというが、
川幅が5メートルにも満たない現在の江名子川から、
それを想像するのはかなり難しい。

江名子川は美女街道のを源とし、
川は少しづつ太くなりながら江名子、
春日町、宗猷寺町、島川原町、吹屋町、堀端町、
天性寺町、鉄砲町、若達町、大門町、桜町、八幡町、
下一之町、下二之町、下三之町などを流れ、
やがて日下部邸うらの千鳥橋で、宮川へと合流する。

町のなかを縫って流れる江名子川には、
車が走れる(多くは一方通行)丈夫なものから、
人ひとりがやっという小さな木製のものまで、
19本の橋がかかっている。

そのひとつひとつには錦絵のような名前がつけられ、
愛宕(あたご)・葵(あおい)・寶(たから)・
金毘羅(こんぴら)・若達(わかたつ)・
鉄砲(てっぽう)・左京(さきょう)・
屋台(やたい)・縄手(なわて)・寺内(じない)・
左京(さきょう)・寺内(じない)・桜(さくら)・
布引(ぬのひき)・千鳥(ちどり)と
橋を大切にしている町のひとの心根が感じられてくる。

このなかでもとりわけ生活の匂いが漂っていて、
風体がこじんまりしており、
さらにまわりの風景と一体化している橋が「鉄砲橋」だ。
春の桜、夏のもみじ、秋のかえで、そして雪。
「鉄砲橋」は季節がかわるごとにおもむきを変え、
川に暮らす人の心を 色鮮やかに映し出す。


写真/盛夏の鉄砲橋