飛騨の細道 94-「手のひらのなかのコスモス」


■手のひらのなかのコスモス

銘木というのは、どんな木でも樹齢150年以上育った木をいうが、
むかしはさらにさかのぼり、
300年以上たたないと銘木とはよばなかったという。

銘木の年齢がこんなにも若くなってきたのは、
戦後の住宅ブームによる乱開発と戦争が原因。
戦前は杉にしても檜にしても、
樹齢300年とか400年クラスの木はざらにあったが、
そんな木から先に目をかけられ、海のもずくと消えたのだ。

長く生きてきた木を人間のぜいたくのために伐るのはけしからん、
という人がいるかも知れない。
けれど、木はいつか枯れて朽ち果てしまう。

そんな木を、天寿をまっとうする少し前に伐り、
暮らしのなかに用だてることは、なにも贅沢なことではない。
伐ったあとに極力無駄にならないよう、
もう一度木の命を別な形で生かす工夫をすればいい。

さて、飛騨高山で開催されている木彫根付芸術祭に
一風変わった根付があった。

作者は21歳と若く、根付の常識に染まっていないのがよかった。
妖怪ブームの時流にのったわけではないが、
ただ一途に「面白いものを創りたい」の一心で、
写真のような作品を生んだのだが、
無心で彫った彼に「大賞」という最高の栄誉が与えられた。

数多いアートのなかでも根付だけしか持ち得ない特長がある。
それは作品を手のなかに包みこんで、
その感触を楽しむことができることだ。

手のひらで温める。手のひらで包み込む。
手のひらでなでる。

手に心を感じようとする若ものが
こんなところでがんばっているのがうれしい。

現代木彫根付芸術祭
会場/光記念館(高山市中山町)休館日あり
会期/12月12日まで

写真/大賞を受賞した根付作品