飛騨の細道 99-「昭和の芳香ただよう町」


■昭和の芳香ただよう町

大日岳山麓、位山山麓、穂高山麓。
大河もはじめの一滴は、
いずこも深い原生林地帯からうまれる。

はじめは山麓の間を縫ってながれる源流は、
少しづつ太くなり、やがて大河の風格を整え、
郡上八幡を流れる吉田川になり、小坂町を流れる飛騨川となる。

かつて鉱山の町として隆盛した神岡町にも、
吉田川や飛騨川と同じような水量を保つ、
高原川という川が流れている。
また町のなかのいたるところにもわき水が出て、
水屋のある暮らしが、人に潤いをあたえているのだ。
(水屋ごとに建物がちがう)

郡上八幡、小坂町、そして神岡町。
この三つに共有していることは、
町のどんまん中に川が流れていること。
その川は欄干からのぞけば足下が震えるほど、遥か下にあること。
そして町の中なのに、流れは驚くほど澄み切って冷たいことだ。

たとえば高原川にかかる藤波橋から眺める景色は、
源流のような渓谷美を見せていながら、
人工的なたたずまいが張り付いて暮らす様子は、
人が川に間借りをさせてもらっているという感じがしておもしろい。

高台から見渡せば家々はどこもが密集しており、
道は坂が多くさらに狭い。
路地裏を歩けば途中途中にコンクリ−ト製の階段があったり、
猫の額のような空き地に出くわすなど、
迷路のようにいりこんでいるのだ。

昭和の芳香をただよわせる町には生活音が消え、
営む人の姿を目にすることはなかったが、
雨に濡れる金木犀が、
アスファルトをオレンジ色に染めていたのが
印象的だった。


写真/ 雨に濡れる谷あいの町の寸景