■町家こそがピースランド
観光客でにぎわう花見小路(京都)から四条通りを越し、
たしか二つ目の交差点を左折したような記憶がある。
花見小路の路地裏は、喧噪でにぎわう華やかさは消え、
静かで薄暗く、細い道が織物の糸のように縦や横へと走っていた。
しばらくすると小さな橋が見え、
見るとせせらぎは、流れといい、量といい、清さといい、
京都女性のような繊細さを醸し出していたが、
それ以上にこの橋のまえで二つの道がひとつになるという、
Yの字のある光景に魅かれてしまった。
ここにはYの字の印しとも言えるお社があり、
名前は『辰己大明神』。
舞妓さんがお稽古やお座敷へ向かう途中にお参りをするという、
花街では大切な神様らしい。
さて京都の住まいといえば、間口が狭く、奥行きが深い『町家』を浮かべるが、
辰己大明神から右の新橋通りは、こうした町家が軒を列ねている。
ところがいくつかの家には「空き家」の看板が下がり、
京都では毎年1,000棟の町家が姿を消すという。
数はそれほどでもないにしろ、
それは高山でも同じで、町家に住む老人たちは生きていくために、
取り壊すか「空き家」にするかの選択を余儀なくされる。
長年にわたって続いてきたものがこつ然と姿を消すのはつらいが、
なかには町家の魅力を理解し不便さを承知の上で、
そこであらたな商売をはじめ、暮らす人もいる。
町家を設計事務所にした人や、町家を絵本の本屋にした人。
知と理を併せ持った人たちがここで商いをし、さらに家族が暮らす。
不便さや古さは承知のうえだが、
ごくごく普通の家に住んでいるものにとっては、
主が住まいとしっかりとけ込んでいることが、
なによりもうらやましい限りだ。
写真/町家の本屋、ピースランド(高山市愛宕町)