■高山のスローフード(その2)
専務は言い終ると両方の手のひらを見せた。
なんと手のひらは長年の熱々のご飯でせいで皮下質まで赤く変色し、
指紋は消えツルツルと光っていた。
おにぎりを握り続けて30年、専務の手は柔らかくてしなやかだが、
しっかりと仕事をしている職人の手になっている。
「熱々のご飯から作るのがウチのおにぎり。
よそさまではご飯を冷ましてから使う。
だから握らないとおにぎりにならないんです。
握ればご飯に余分な粘りが出るし、ご飯粒とご飯粒の間の空気がなくなって、
口に入れた時の感じがね、固いんだよね」
専務が作る『握らないおにぎり』は対面の女性の手に渡り、
すぐさま海苔が巻かれ、頭に黒ゴマがふられて一個が完成する。
こびしやでは巻いた海苔は一瞬にしておにぎりに貼り付き、
パリパリ感を失う。
それが欠点といえば欠点かも知れないが、
「海苔のパリパリ感を失ってでも温かなご飯を最優先したい」と
専務はきっぱりと言った。
それを裏付けるようにこびしやでは、
ご飯の温かさを12時間まで持つように作ってある。
口に入れておいしいご飯。そこにあくまでこだわるこびしやでは、
過去、色々な銘柄のお米を試した。味もさることながら、
握った時の感じが一番しっとりきたのが新潟産の「コシヒカリ」。
以来、このお米でおにぎりを作っている。
コメント
こびしやのオニギリを初めて食べた記憶は、幼稚園時代にさかのぼります。
幼稚園の行事などで出されるのが「こびしや」のおにぎり弁当だったからです。
あの、しなっとした海苔とオニギリの一体感が好き。
湿り気のある海苔とお米の香りが好き。
だから、私は今でもオニギリの海苔は最初に巻いちゃう派です。
ものすごく、こびしやの影響を受けてます。
そんな飛騨ん人、意外と多いのではないかしら・・・?