■親鸞とお月さま
15日の夜に開催される、
親鸞上人のご恩徳に感謝する三寺参り(飛騨市古川町)は、
300年も続く行事だが、いまでは町主催のイベント色で染まり、
「いにしえの光景を親しむ」のはむつかしい。
伽藍にかかる赤、白、緑、黄、紫の五色幕や
本堂内のろうそくの揺らぎは当時と一分の違いはないだろうが、
本堂でお参りしているのは、老若ならぬ老ばかり。
若者はどこにいるかと思えば、
思い思いの場所で携帯カメラをかざしているのだ。
1,000本ろうそくが並ぶ瀬戸川では、
明治時代の製糸女工を偲ばせる、
帰郷の晴れ着姿の女性たちが、
ろうそくの前に立ち祈っていた。
その姿は竹久夢二の世界のようでもあり、
もろくて切なくて、はかないのだが、
その風情に浸る間もなく、
「これからは報道陣の撮影のみとなります」という
かん高いスピーカーの声と、流し灯籠やろうそくの
売り子の声で現実に引き戻されてしまった。
さいわい、巡礼最後に訪れた寺では、
雪をまとった親鸞上人と月夜が、
かの地へと私を誘ってくれた。