飛騨の細道 112-「言葉の力」


■言葉の力

今から十数年前、ある本が高齢者たちを勇気づけた。
その本は赤瀬川原平が書いた『老人力』だ。

なぜこのの話題を引きずり出したかというと、
昨今、『○○力』というような『力』という文字を含むタイトルを冠にした
本がいずれも読者に人気だからだ。

『老人力』に始まり、五木寛之の『他力本願』、そして渡辺淳一の『鈍感力』。
ボケたり、他人のふんどしをあてにしたり、鈍かったりと、
本来ならマイナスとされる陰の部分が白昼堂々とさらけ出される。

言葉の力というのは考えてみれば凄いもので、
「あいつ、最近モーロクしたな」が、
「最近、あいつも老人力がしっかり身についてきたよな」になり、
「反応がイマイチ、ニブい」が「彼の鈍感力は鋭い」などと、
訳のわからないことになってくる。

こんな風に言葉に『力』をつけたことによって、マイナスは不思議な色を帯び、
ことによってはその人の才能にすら思えてきて、なかなか楽しいのだ。

ところで本屋の売り場には格言集や名言集なるものがあり、
希有な人生を生き抜いた人達の言葉には生きるための知恵が詰まっているが、
短いゆえに一目瞭然、『老人力』のような軽快でシャレが効いて、
マイナス転じてプラスになるような言葉は、
なかなかお目にはかかれない。