■お土産ばなし
観光でなりたっている高山には
お土産に携わっている人がたくさんいるが、
市では、お土産品業界の活性化のために
ずいぶんと前から「お土産品コンクール」なるものをやってきた。
ここでは市が選出した審査員(市民と行政員からなる)が
エントリーされたお土産品(工芸・食品)に
優劣をつけるのである。
地のものであることはもちろんのこと、
適正な価格であること、
常備提供できるもの、
飛騨らしいものなど、
色々なハードルをクリアし、
晴れて受賞したお土産品には作者に賞金。
そして商品には高山市推奨のシールを貼ることが許される。
それぞれの出品者は持ち時間2分をフルに使い、
開発商品の素晴らしさを力説するのだが、
大半が力を入れすぎて、5分はゆうに越してしまう。
話となると売ることに長けた営業マンより、
技術の自慢話へと脱線してしまう職人さんのほうが、聞いていて楽しいものだ。
その中でもこの老人の話は群を抜いて奇抜なもので、
ちょいと紹介したい。
「こいつあ、山から拾ってきて切っただけのもんやで、
金なんかとれんわな。
もとではただやで、金もらったらどろぼうやな。
ほしい人にゃ、タダでやることにしとる」
「目のような、口のような風にも見える穴があるんですが、
手を加えていらっしゃるんですか?」
「んにゃ、なにもしとらんぜな。ただ、穴を開けただけや」
「見たところ、表面がつるんとして、
深い色合いになっているんですが?」
「何年も前から家のなかに転がしておいたで、こうなったんやろ」
「…………」。
体制におもねてしまう人が多いなか、
老人の立ち姿は潔くてどこまでも力強い。
その口から発せられる言葉はストレートで、
審査委員を唖然とさせるには十分すぎるほどだった。
○老人が出品したものは太さ3cm、長さ10cmほどの丸木。
円周に沿って三方向に伸びた枝が長さ5cmほどに切ってある。
キーフォルダーや帽子などを掛けるには便利がいい。
(丸木は紐で吊るすようになっている)
残念ながら賞の対象にはならなかった。
写真/23年度からはシールのデザインも一新する(写真は旧デザイン)