飛騨の細道 156-「提灯屋」


■提灯屋

筆に墨をつけ一気呵成に書く。
ところが雑念がはしり、
途中でとまると、つい、あと戻りをしてしまう。

いちど筆をおろしてから、どうも気に入らなくて、
もういちどなぞり書きをすることを『提灯屋』といい、
よくないとされる。

『提灯屋』とは、江戸時代以来の看板屋や、
提灯屋がなぞりながら文字をつくることから
そのように呼ばれたという。

しかし、数歩ゆずって、
提灯はカタチといい、その文字といい、
実にすばらしい意匠である。

10月、八幡祭りになると、
川東の町すじにはこうした提灯が町屋の軒をつらね、
夜になるとぽっーと灯りがともる。

たとえ提灯の文字がなぞられていても、
りんとした美しさは感動的である。


写真/出格子と提灯はお互いをひきたてる