飛騨の細道 177-「澄明な流れ」


■澄明な流れ

急峻な山間を縫うように流れる谷川に手を入れ、
口にふくんでみた。

驚くほどに冷たく、そしておいしい。
それ以上に驚くのは水の透明度で、
ガラスのように透き通った水の深みは、
リゾート地の海の透明度とは比べることのできない蒼を含み、
急流ほとばしる荒瀬や淵や瀧などで趣を変える。

そんな澄明な流れに飛騨のカッパが飛び込む。
一瞬、ナイフで切ったような亀裂が走り、
炭酸のような泡が翡翠色の川面から沸き立ってくる。

今頃、勢いよくとびこんだカッパの坊主頭には、
心地よい衝撃が走り、体は冷水につけた生麺のように
キュとしまっているにちがいない。
などと水中での感触を思い浮かべながら、
透明な水の心地よさ、不思議な浮遊感が体に翅をひろげ、
重力から解き放たれた自在感に魅了されたカッパ時代を思い出す。

6年前、川遊びにふけっていた少年たちも、
夏がくるとあのときの水の感触を思い出すのだろうか。
そうであってほしいと願う。


写真/宮川上流と双六渓谷(いずれも高山市)