飛騨の細道180-「風土に根付くということ」


■風土に根付くということ

創るものにもよるが、
いったい作家は一生でどれだけの作品を作るのだろうか。
たとえば陶芸家だったら。
染織家だったら。
漆工芸家だったら。

数多く創れば優れた作家というわけではないが、
知人のイラストレータは60年間かけ、
12,000点あまりの作品を手がけた。
それが多いのか,少ないのかはわからないが、
聞けばやはり凄いとしか言いようがない。
生み出された作品の数もだが、
仕事一途で歩んできた60年間という年月に
何か打たれるものがあるのだ。

じつのところ地方で創作活動をする人は、
東京なんかにいる作家とくらべると、
仕事の絶対量が圧倒的に少ない。
いい作品を作ってもそれが次に繋がっていかないのだ。
しかし12,000点近くの作品を手がけても、
東京では浮んでは消えるうたかたのような評価なのだろうが、
高山だったら絵心のある市民のあいだに
いつまでも深く刻み込まれてゆく。

玉賢三という作家はとても器用で、
イラストレーションからデザイン、ロゴやマークなど、
多くを手がけてきた。
その中でもイラストレーションは、
写実絵画とも呼べるような分野を飛騨で確立し、
彼が手がける飛騨の祭礼の絵は、
品性のある飛騨高山のイメージを何十年にわたって担ってきた。

その一つ。
闘鶏楽と呼ばれる祭礼衣装を纏った男の後ろ姿。
そして夕焼けの北アルプスとふもとの山々。
さしずめこれが京都だったら、京町屋と舞妓さんか、
祇園祭りの山鉾に銀閣寺といったところだろうか。

描くモチーフには事欠かない京都だが、
背景を占める雪を頂いた山々の夕焼けは、
どこを探しても京都にはない。


写真/9月に発売された高山限定作品集