飛騨の細道 185-「あやうき処に鎮座まします」


■あやうき処に鎮座まします

松尾芭蕉が奥の細道で歩いた山形県の山寺、立石寺は
そそりたつ岩の上に建立されている。
まわりの建物も岩にすがりつくようにへばりついているのだが、
からだにロープを巻きつけて、
断崖絶壁から上半身を 乗り出すように吊るされる”覗き”修行のように、
絶壁はあの世とこの世の狭間で、
なにやら神秘的な力が働いているようだ。

立石寺は天台宗のお寺なのだが、
日本各地に鎮まる神社の数はおよそ十万社以上ある。
その中にあって畳2枚ほどの極少の場所に、
本殿が建っている神社というのはそうは多くないはずだ。

拝殿の裏にまわると木の根っこのような小高い場所に二つの社があるのだが、
神様がお鎮まりくださる本殿は階段以外、すべて崖である。
本殿から左を見下ろせば20mほどの下に渓流がながれ、
本殿正面下も5mほどの落差がある。

祭礼ともなれば1mほどの場所で神主が祝詞をあげるのだろうが、
神に拝をしながらうっかり後ろに下がり過ぎたら転落である。
なぜにこのような恐ろしい場所へ本殿を建てたのか。
それなりの謂れがありそうだが、
高山市丹生川町の旗鉾伊太祁曾神社にも、
立石寺と同じような神秘な力が働いているに違いない。

高山市丹生川町旗鉾の伊太祁曽(いたきそ)神社」では毎年1月14日に
米、大豆、小豆と一緒に炊き上げた麻ガラの穴に詰まった
粥(かゆ)の入り具合を見て、
農業などその年の吉凶を占う「くだがい神事」を行う。
この神事は約600年前から同地区に伝わっているものである。


写真/かろうじてこのアングルから本殿を撮影するのが精一杯