■熊の掌、1本50,000円。中国の相場である。
熊の掌の料理を取材した友人の話である。
上宝町には追っ手のソ連軍の目を盗み、
スキを見て畑から飛行機を飛ばし、
命かながら日本へ逃げてきた元特攻隊員がいる。
多くの戦友がガス欠で朝鮮の飛行場にあえなく不時着し、
シベリア送りになった逃亡劇のなか、
元特攻隊員はかなりの強運の持ち主だったのだ。
元特攻隊員は郷里へ戻るとなぜかマタギになり
80歳近くまで奥飛騨の山の中をかけめぐって、熊を仕留めてきた。
毛皮は飛騨や下呂などの旅館へ。
さらには個人宅のインテリアとして重宝されたが、
現在では剥製や毛皮にはまったくお呼びがかからない。
(こと毛皮に関しては革をなめすのに50,000円ほどかかるため、
最低でも50,000円以上で売らないと赤字になってしまう)
さて、記者は一度見たら忘れられない、
インパクトのある熊の映像を撮ろうとある計画を企てた。
知人の料理人に頼み、
中国の料理に登場する熊掌料理を作ってもらうことにしたのだ。
それを凍てつく奥飛騨のかまくらの中、
ゲストの女性たちが餅ならぬ熊の手を、
パクつくという映像をこしらえてしまったのだ。
見れば熊の掌はケモノなのに毛がはえていない部分であって、
人間のように皺があって手相まである。
その手を丸二日間、薪の火でコトコトと煮続ける。
映像では掌の固い皮を剥ぐと、むわーっと蒸気が立ち上がっている。
それをカニの甲羅をはがす要領で、
ゲストの女性たちはいとも抵抗なくパカっと開くと、
その下のゼラチン状の肉がなめらかに光っているという寸法だ。
まさに荒々しく、スギちゃんの「ワイルドだぜ〜」そのものである。
味は旨いのか、不味いのか、私の舌ではうまく伝えることはできなかった。
と記者は言っていたが、
グルメ番組でよくあるような「初体験の味」とか「濃厚でいて意外とあっさり」。
さらに「苦手な人でも大丈夫」なんてことを言う、
女性たちが一人もいなかったのが幸いだった。
写真/実際の掌ではグロすぎるため、イメージで。