飛騨の細道 203-「掃除もこれ鍛錬」


掃除もこれ鍛錬

アップルのスティーブ・ジョブズ氏が
お忍びで訪れたという京都の西芳寺。
このお寺は苔寺として有名だが、
拝観料が3,000円(写経込み)もとられてしまう、
ということでも有名である。

さらにここは京都御所や桂離宮のように事前の申込みが必要で、
”そうだ、京都へ行こう!”という思いつきが通用しないから、
大変である。

世界遺産の西芳寺を悪口をここまで書き連ねるのは心苦しいのだが、
じつは飛騨高山には西芳寺に勝るとも劣らない、
美しい苔があるからだ。
(こちらはいつでも見えるし、タダである)

精進料理 角正のしつらえは玄人ごのみで、
庭は江戸時代から続いている。
およそ200年の間に、多少の植木は加えたものの、
庭木にはいっさい手を加えておらず、苔も当時から生き続けている。

今年は異常気象で長雨の影響もあったが、
ここ3年来、日に幾度も苔に水をあげてきた成果が出てきており、、
じつにしっとりとした、ビロードのような肌ざわりの苔が、
緑のじゅうたんを敷き詰めたように庭一面に広がっている。

いつも朝の8時前には庭掃除を終えるというが、
当主も女将も板長も仲居さんも
毎日、毎日、ホウキを片手に丹念に掃除をする。

これからの時期は松の落ち葉が目立つようになり、
掃除も一層大変になるようで、
日に幾度も庭へ出なくてはいけない。

それでもこの庭を楽しみに来店される方々に、
清楚で凛とした雰囲気を味わってもらいたいために、
その苦労は厭わないという。

西芳寺の庭園とは比べようがないが、
苔への思いの深さは断じて負けてはいない。